2-76. 最大の沈没-ロンドン-

2013-09-16 12.47.11結局、その物価の高さに皆が恐れるイギリスという国に、一か月半もいてしまった。
そのうちの半月は外部に出ない生活であったにしても、一国の、しかも一都市に一か月も滞在とは、これは旅始まって以来の沈没である。

イギリス、確かに物価はレストランで食事したり、パブで酒を飲めば目がくらむほどに高いが、安宿に泊まればそれほど高くないし、自炊も、大手スーパーならその他ヨーロッパ諸国よりも安く食事を作ることが出来た。

といっても、3週間を友人やカウチサーフィンで他人の家にお世話になり、1週間を出稼ぎ宿で過ごした私は、ロンドンでも特別安く収まったのだろう。

スペイン人やオーストラリア人、イタリア人などの出稼ぎ労働者(または夢追い人)と一緒の宿に泊まり、一日1ポンドを目指してスーパーで安い食材を買い、図書館に居座る生活をしていた一週間は、『何のためにロンドンにいるんだろう?』ならまだしも『何のために旅しているんだろう』すらも思わず、『何のために生きているんだろう?』と思ってしまうほどに、何もない生活をしていた。見る人が見れば夢のロンドン生活だというのにっ!

唯一の救いは、宿が同じだったスペイン人、ラスタカラーのニット帽をかぶり、ドレッドヘアーで、私が部屋に戻ると『スモーク?』と聞いてくるほど、レゲェ色の濃い彼は、私が日本人だと知るや否や、日本のアニメでもちきりである。
『ドラゴンボールな!?』『ワンピースな!?』
私が生まれる前のアニメに関しても、強いスペイン語なまりで話してくる、彼の陽気さのせいで、わたしはスペインに行きたくてしょうがなくなってしまったほどだ。
ドラゴンボールとワンピース(とトリコ)のコラボアニメを見つけて、友達に自慢するために電話し始めた彼を見つめ、彼もまた出稼ぎのためにイギリスに来ていると知ると、私はもはや、人生など『どう生きるか』などではなくて『どういう心持で生きるか』だという気がしてくる。

陽気な国の人々を見ていると、何かに悩んだりしている自分がバカバカしくなってくる。
『楽しいなら、それでいいじゃないか』と。

そんなスペイン人と別れ、監獄のような生活と、不味いイギリス料理を代表する食事を嗜んでいる最中(もちろん、満足な食事ができるだけ感謝しなければいけない立場なのだが、連日の芋料理(イギリスは芋が主食らしい…)と我々がライスロールウィズライスと名付けたようなおかしな食事には、さすがに呆れたこともあった。)に、面白い人にもあった。
本当に海外で会う日本人はおかしな人ばかりだ。

ワーキングホリデービザで入国し、二週間野宿をしているというのだから驚きである。

野宿を体験しに英国に来たというのか。そもそもが現在の持ち金が2万円にも満たないというのだから同化している...。

しかし、牢獄から出た後、宿代を払いたくなかった私はそんな彼と大都会での野宿、つまりはライカホームレス生活を始める。

が、ここはロンドン。空は低くて、雨はよく降る。
9月になれば夜はもう冬だ、雹が降るほどである。

公園にテントを張って、外に出ると雨が降ってきた。

結局私たちは泣きそうになりながら、安いバスをフル活用して国際空港のベンチで寝ることとした。
国際空港ほど安定した野宿場所はないのではと私は思う。安心安全、トイレもある、何より外ほど寒くない。

その後、牢獄に再投獄させてもらい、仲良くなった日本人の自宅に汚いホームレス二人、寝かせてもらう。
何度も思うが、本当に旅は優しさで続けられている、どうやったらこれを生かせるか、考えて生きなければいけないと思う。

さて、次の日になれば私は、今回の旅の本当の最終目的地(当初の予定の)に行くことなる。
長かったイギリスにもお別れである。

さよなら、くもり空と不味い料理。それでも人々をひきつける文化と都市。ありがとう赤色のバス。

続く…


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です