私はここにとどまり続けたいと思ってしまっている。
その理由にはいくつかある。
まず美女である。
西から来た旅行者曰く、美人で有名な東欧と比べても、アルメニアの女性はその上『可愛さ』があるのだという。
私たちはどこか青い目に憧れがちだが、やはり見てみると黒髪に黒い瞳はとてもキュートなものである。
さらにこの国には、理由が分からないが、属に言う『東洋人オタク』な女性が多く存在するという噂がある。
人口が少ない国にかかわらず、日本大使館がないにも関わらず、『日本語を勉強している』という美女が多く存在しているというのだ、私はそれに期待せずにはいられなかった。
ちなみに私は『私の息子に似てる』と言う言葉と『美しい』という言葉をいただいたことがあるが、残念なことに両とも私の二倍以上の歳のある女性からであった。 先進的な夜遊びの存在と、その安さも女性と出会う可能性を示唆している。
次に、宿の日本人旅行者たちとの相性である。
彼らがどう思っているかわからないが、私は彼らがいるだけであと何日でもいたいと思ってしまう。
日本で買うよりも格段に安く買える『イクラ、キャビア、ザリガニ』を用いて自炊を行い。
真面目からバカな話で、日が明けるまで盛り上がってしまう。
短期旅行者にはわからないであろう、パッカーとしての考え方や苦悩などが共有できることはこの上ない喜びである。
時として、『日本人宿』に泊まる利点を考えるときに、私はやはり、各国を旅してきた方々と『日本というフィルターを通して』 語れることがあると思う。
同様に『世界というフィルターを通して日本を語る』ことも可能なのだ。
やはり私は日本人である。世界の貧困問題よりも日本人が抱える悩みを話していたほうが楽しいのである。
それは外国人とはできない、大きくそして大切な話しである。
もちろん、日本人が多く集まる宿の素晴らしさも長居してしまいそうな理由の一つである。
そんな日本人と話していると、歳の近いパッカーがこう話した。
『この国って何かおかしいよね?』
それは、私がエレバンに到着した直後から感じていたことだ。
私は私の嗅覚が彼のような海外長期滞在者と同様なものになっていることに驚いた。
さて、何がおかしいかと言うと
『物価の安さに対する生活水準の高さと、ドラム通貨の安さ』
である。
簡単にいうと、この国では宿代を計算に入れなければ一日500円で生活できてしまう。
それは、例えばパキスタンはその町並みの汚さや、人々の恰好を見れば、なんとなく想像できる。
ネパールでは観光客の多さと郊外の貧しさを見れば一目瞭然だ。
イランでは経済制裁によるリアルの信頼度のなさと、産油国という事実がそれを可能にしている。
しかし、この国では石油が生産されていると聞いたことがない。
それなのに人々が高級車を乗り、綺麗な服装で街を歩き、街は美しく、そして娯楽や食事の選択肢も豊かだ。
そこで『ドラム通貨の異常な安さ』と『出所のわからない収入』という二つの疑問が生まれるのである。
その国に決定的な疑問が生まれたのなら、私はやはりそれをある程度まで理解してから進みたい。
パッカー達と議論をするだけで、納得できる答えは得られたりするのだが、それでも、やはり私はこの国についてもう少し調べていたいという気持ちが生まれている。
そのためにはここに滞在するのが一番なのである。
しかし、私のイギリスを目標とする不安要素が取り除かれたいま、それでも私は歩みを止めてはならないのであるが、少しだけ待ってほしい。この国の本当の顔が見たいのだ。
故に、私はもう少し、もう少しだけでもこの国にいたいと思うのである。
さて、いろいろなことを言ったが、私は美女を探しに街に出かけようとしよう。
何事だって最初に言うことが一番重要な事柄だったりするものである。
続く…