2-38. アメリカと共に-テヘラン-

P1020664

タクシーに高い料金を取られながらも、ようやく見つけた宿で少ない睡眠をとった後、私は事前に入手した情報の元、目当ての宿を探しテヘランを歩きまわった。
私がこの旅で得た決定的な能力は、 英語をさも話せるかのように振る舞うことと、目的地にたどり着く嗅覚だろう。
地図も持たず、名前しか知らない宿を見つけ出せた時、私はその嗅覚の進化に我ながら感動せずにはいられなかった。
宿は、改装してゲストハウスからホテルへと変わり、値段も情報よりそれなりに高くなっていたが、私は店員の友好的な接客に、イラン最後の滞在をメヘルホテルに決めた。

改めてテヘランを歩いてみると、その車の交通量と排気ガスの多さに驚かされる。
そして、なぜ安宿の近くは、電気街なのだろう?私の少ない疑問の一つである。

ある交差点に差し掛かった時に、私は目にしたものに感動せずにはいられなかった。
洋菓子屋に、シュークリームがあったのだ。そう、この国はシュークリームがある国なのだ!

私は皆に『今、何が一番ほしい?』と聞かれると、日本食ではなくいつも
『シュークリームと氷の入ったキンキンの水』と答えるほど、シュークリームが好きである。
中に入っているのがカスタードではなく、生クリーム、それでこの上なく甘かったが、私はそれの特大サイズを注文し、平らげてしまった。今思い出しても甘さで気持ち悪くなるが、食べてる最中の幸福感はこの上なかった。

それを注文しようと、英語のわからない店員に値段を聞こうと悪戦苦闘していると、女性が『メイアイヘルプユー?』と声をかけてきてくれた。
値段を知りたいというと、ペルシャ語で値段を聞いて、教えてくれた。

その後、一緒に洋菓子を食べながら話す。
『いろんなところを旅してるんだ、中国からインド、ネパール、パキスタンと来てここに。この後アルメニア、グルジアって行ってトルコからヨーロッパを回る予定だよ』
と言うと
『素晴らしいわ!私はタイやシンガポール、インドネシアを旅したけど、とても素敵なところだったわ。』
イラン人は、東南アジアを旅する人が多い、予算的に適当なのだろうか?
『イランは疲れるから、肌と頭、隠さないといけないし…』
そういえば、バスターミナルで私を助けてくれた女性も『イランが嫌い、疲れるもん』と言っていた、彼女は私の旅の話を聞いて、うらやましがり、私を好きだと言って別れ際に『マイハニー』なんて粋な一言を行って別れたのだが、彼女の『疲れる』も同様の理由だったのだろうか?

『そういえば、イランの女性はイランでは隠してるけど…』
『他の国に行ったら?脱ぐにきまってるじゃない!オープンよ!こんなうっとおしいもの!!』

『あなたのイランの滞在が素敵なものになると祈ってるわ』 と言って彼女とは別れたのだが、私はイランの女性の力強さを感じていた。

この国では、女性たちの方が英語が堪能だし、知的で大人の印象を受ける。
そんな彼女たちからしたら、『守るため』という建前の宗教など、もはや余計なお世話なのかもしれない。

生クリームまみれで少しの気持ち悪さと共にさらに道を進むと、旧アメリカ大使館が見えてくる。
映画『アルゴ』の舞台となった場所である。私はその映画を見てはいないのだが…

反米気運が最高潮だった時に、学生たちが大使館を取り囲む事件を起こした場所である。

その大使館の壁には、骸骨化した自由の女神の絵や、『DOWN WITH USA』つまり『アメリカくたばれ』という意味の文字が描かれている。
許可を取れば中にも入ることが出来、そこはアメリカの悪行博物館であり、当時スパイ活動を行っていた事実や、救出に失敗したヘリの残骸などを見ることができるらしいが、私は『セーフティエリアだから』と一蹴されてしまった。

その時期には、反アメリカのグラフィティが街のあちこちにあったらしいが、今ではそれらは消されてる。
しかし、この大使館のは残されているらしい。
不謹慎ながらも、無駄に完成度の高いそれらの絵に対して、私は少し芸術性を感じてしまった。
考えさせられる、当時は『意味のある』絵だったのだろう。

しかし、日本の学生運動のように、当時は正しい行為だったかもしれないが、それらの行為が今、必ずしもあっていたとは限らない。
その時、許されざる行為があり、断絶しても、今後の未来のために必要なら友好的でなければならないのだ。

『DOWN』の文字が消され『IRAN』と書き換えられた時、私はきっとその絵に対して、より芸術的なものを感じることが出来るだろうし、そうなることを祈っている。

続く…


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です