2-39. 東回りのチャイ-テヘラン-

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街中から聞こえる『チンチャンチョン』と、明らかにぼったくりのタクシーのせいで、私はイランに疲れていた。

『僕が旅した中で、人がいいベスト3は、ミャンマーとイランとパキスタンだね!』
フンザで出会った世界旅行者の言葉が、私にイランへの過度な期待をしていたのかもしれない。

もちろん、一部の阿保そうな若者と、金好きのタクシーの運転手を除けば、いい人だらけである。家で食事をご馳走になったという話もよく聞く国である。
街を歩けば、軽食とタバコをくれる。

しかし、私は数少ない阿保と、英語が通じないことのせいでストレスフルな数日を過ごしていた。

ターミナルから帰る時、日本語でタクシーの客引きが声をかけてきた。日本で働いていた事があるらしい。
私が『日本大使館に行きたい』と言うと『知ってるよ!』と言ったので、値段を聞いて乗り込んだのだが、彼は日本大使館の場所を知らなかった上に、到着した時に料金を値上げしてきた。
日本円で100円ちょいのことなのだが、私はイランでのストレスを彼にぶつけてしまった。

『最初に料金確認したでしょ?なんで変わってるの?この料金なら乗らなかったよ?』
『私、場所、忘れた。イランでは場所、忘れる、悪くない。』
『なら忘れた時に言うべきだよね?俺は貴方が知ってるって言ったからのったんだよ?』
『知ってると思った、でも忘れた。だから友達に聞いた。』

10分ほど、ほぼ一方的に私がどなり散らかしていただけだが、元の料金で決着がついた。

下車後、少し悪いことをしたと思ってしまった。彼の料金は決してぼったくりではない金額であったにも関わらず、私は怒鳴ってしまった。ここ何日かで私は確実に心が狭くなっている気がする。

日本大使館。私は数カ国旅してきて、大使館に来るのは始めてだった。
大使館直属にあるという日本人学校が見学できるなら、と思い訪ねて見たのだ。
学校見学は時間の都合上出来そうになかったが、日本人との会話で私は少しだけ心の平穏を取り戻した。

『よく来れましたね、大統領選挙の関係で、今はなかなかビザが下りないんですよ。新しい大統領になって、イランは変わって行くと思います。しかし、物価上昇に伴う格差で、多くのイラン人が金品を狙っているので、くれぐれも気をつけて下さい。』

大使館のおばちゃんはそう言って優しく忠告してくれた。

『もう、イラン出るんですけど、気をつけます。』そう言って私は宿に帰り、翌朝のダブリーズへのバスに備えて寝た。

翌朝、またもやターミナルまで!と言ったのに、ターミナルまで歩いて10分以上かかる場所で下ろしてきた乗り合いタクシーにイライラしながらも、バスを待った。

予定よりも30分遅れて来たバスは、VIPバスであった。
イランは水よりも安いガソリン代のおかげで、タクシーやバスが馬鹿みたいに安い。しかし、VIPバスなるものは、少し割高になるイメージがあったのだ。

私は確かに前日チケットを買った時、『少し高いかな?』と思ったが、ぼったくりタクシーにあった後だったので、交渉するのも面倒になり購入したのだが、それがなんとVIPだったのだ!

このバスは足を伸ばして寝ることが出来るイスの上に、ジュースにお菓子が配られ、バスには冷蔵庫まである始末である。
もちろん、VIPだけに、無条件に声をかけて来る人もあまりいなく、皆紳士的である。
それは寂しくもあるのだが、優しい搭乗員と読書のおかげで幸せの時間を過ごしなんだかいい気持ちになってしまった。

読書からふと目を上げると、一人の中学か高校生ぐらいの少女(西の方の人々は大人っぽく見えるため、実際にそうかはわからないが)がヘジャブ(イスラムの女性の被り物)をしていなくて、髪の毛が見えてしまった。
イランでも、明らかな子供はミニスカドレスにノースリーブなんて格好もよく見るが、少しでも大人に見える人はほぼすべての人間が着用していた。
私はパキスタンから続く光景のせいで、女性の裸体を見たような気分に陥り、罪悪感を持ちつつ、横目で彼女のことを眺めていた。

こちらは罪悪感を持って見ているにも関わらず、彼女は私のことをじっと眺めている。イラン人にはない、可愛さが漂っていた、コーカサスの人なのかも。

彼女がこちらを見てくるから、私も彼女の黒い瞳をまじまじと見ることが出来た。本当に美しく、そして可愛い。

そう、コーカサスは美人の国々として知られているのだ、私の胸は彼女のせいで高鳴らずにはいられなかった。

途中、サービスエリアでチャイをいただく。
この国ではティーパックで簡易的にお茶を作るのが一般的で、どこにでもホットウォーターと売り場が存在する。
美味しい、角砂糖を舐めながら飲むそのスタイルを気に入った私は、ティーパックのタグを切り取り、日本に帰ったら探そうと思い、ブランドを見てみた。

ブランド名と共に『LONDON』と記載されていた。

中国から続く茶の文化は、いかに私が辛く大変な時も心と体に平穏をくれた。

そんなチャイが私と逆方向でロンドンから来たのだと思うと、なんだか感慨深かった。
あぁ、ロンドンでは、この先の国では、どんな美味しいお茶が飲めるのだろうと想像しながらも、バスはダリーズへと続く。
続く…


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

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