2-11. 9時間遅れのバラナシ-バラナシ-

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アグリの宿でラップトップをいじっていると一人の青年が話しかけてきた。
『僕は学校で5年間VFXの勉強をしていて、日本かアメリカでその知識を生かして高い金を得るのが夢なんだ!』と言い『日本のいいカンパニーや、行き方を教えてほしい』と聞いてきた。

私はVFXについての知識がまったくないので、インターネットで検索しながら彼に教えてあげながら。
『目指すなら本場のアメリカに行くべきだ、そもそも君は日本語ができないじゃないか!』と
『大事なのは情熱、勉強、そしてあきらめない心だ』と、23歳の男が、夢のない男が偉そうに語っていた。

私は、『日本の映像制作業界は一部の人間を除いてだいたい低収入だよ』と言って、だいたいこれぐらいだろうという月給を紙に書いた。

かれは目をキラキラさせながら、『それはここじゃビックマネーだよ!』と。
私は『そうじゃないんだ』と言いたかったが、私にはその英語力がなかった。
ここでその金額を手にするのと、日本で働きづめの毎日でその金額を手にするのは、まったく異なるということを伝えたかったのだが、私の脳はそれらの言葉を持っていなかった。
『OK,もし君が日本に来ることがあれば手助けするよ』と言って名刺を渡したが、私は何とも言えない気持ちを持ってしまった。『幸せとは、お金だけじゃないのだ』と。

汽車まで時間もあるので、ラウンジにいると、案の定同じように騙されて二人組がやってきたのだが、彼らは『でも時間ないし面倒だから安いもんです』とまったく気にしてなさそうだった、私もそうならなければと思う。

アグリからムガルサライへは列車で移動するのだが、なんとこの列車、予定時刻よりも6時間も遅れているという!
噂では聞いていたが、恐るべきインド列車。
私は同じ車両だというフランス人のカップルバックパッカーと共に時間をつぶすこととなる(ちなみに彼らの流暢で聞き取り辛い英語のせいでこの一週間で得た私の英語に対する自信はどこかへ消え去って行ってしまった)。
フランス人はクールで、そしてイケメンだ。駅にいるインド人からも羨望の眼差しが向けられていた。
しかしそんな彼らも、6時間遅れた列車がさらに1時間遅れると分かったときは、さすがに辛そうであったし。
さらに電車が到着時刻よりも2時間遅れたときは、落胆の色を隠せずにいた。
結局17時間も駅および列車の中にいたのだ!

しかし寝台列車の中は私にとっては楽しいものであった。寝台列車は私により旅らしさを与えてくれたし、何よりミッドナイトエクスプレス、そう、深夜特急である。

ムガルサライ駅からタクシーでバラナシまで行き、フランス人の宿を道案内が適当なインド人のせいで、1時間以上かけて探しだし、私は騙され宿で再会を誓った彼らとの約束の宿へと向かった。

しかし、ゲストハウスに騙され宿の彼はいなかった。
『彼ですか?』と聞かれて出てきた男は違う人だったが、ダブルベッドの部屋を一人で借りるのも気が引けたため、『一緒に泊まりませんか?』というと快諾してくれた。

バラナシ、そこは数多くの人が『言ってよかった観光地』に挙げ、多くの人の価値観を変化してきた場所である。
牛、犬が道路を占拠し、物乞いのメッカとも呼ばれる場所はお金を求めるインド人で埋め尽くされている。

私がバラナシに来るなんて、数か月前までは考えられなかった。
数日ここに滞在しようと思う、私の価値観は変化を遂げるのだろうか?

続く…


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

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