2-19. インド最後、感動の連続-アムリトサル-

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『静かなところでwifiしてたい。』
そういっていた彼がなんとまたインドの北側に旅立ったその日、私は宿で遅くまで酒を飲み、語りあった。
『サンタナデリー』。デリーにある日本人宿はインドのゲストハウスの値段としては割高ではあるが、それゆえに沈没者もおらず、通過点としてはこの上ない宿であった。
世界一周の終わりに差し掛かってる人。これから西へ向かう者。様々な経験をしている店員。
日本で会っても一言も話さなかったであろう彼らとも、世界のどこかなら深夜4時まで語りつくすことが出来る。

世界の女事情、治安、失敗、そして終いにはナースの本質というどうでもいい話まで。

しかし、そんなハードな旅をしてきた諸先輩方でも、私の失敗や不幸の数々は心配に値するものであるようだ。
ここで、私の自分が起こした不幸と、外側の事件を羅列してみようと思う。

<自己責任>
・出発数日前に高速道路で大事故
・上海でのチンチンバー事件
・インドの偽旅行会社
・足の裏に入れていたカードを自分の脚力で破壊

<外側の事件>
・出発一か月前にイランパキスタン国境地震
・上海到着と同時に四川大地震
・上海の最後のディナーに羊肉を食べた後、上海で偽って羊肉を売っていたとして大勢逮捕
・中東大統領選挙

たしかに、何かの力が私の旅を邪魔しているとしか思えない。
しかしそんなことも『さまざまな経験したもの勝ちだよ』と笑ってくれるのが旅で得る仲間なのであろう。

そして私もそんな居心地のいいゲストハウスを出る。
インドの都会(スタバやマックがあるオシャレタウン)のコンノートプレイスやシーク教の寺院
古い町並みが汚く残るオールドデリー、しょーもない市場、そして世界遺産を遠目に見て私はデリーを出た。

向かった先はアムリトサル。パキスタンとの国境がある駅である。

アムリトサルにはゴールデンテンプルと言うシーク教の聖地がある。
銀閣派の私は、見栄えだけ見え張ってるんだろう、とスルーするつもりだったのだが、宿の情報ノートにタダ飯ただ宿があるということで、行ってみることにした。

そもそもがその前のデリーのシーク教の寺院で宗教というものに初めて感動していた私は、シーク教が好きになっていた。
シーク教はイスラムとヒンドゥーが半分ずつ入ったような宗教で、皆平等を精神にしている(らしい)。

アムリトサルのゴールデンテンプルは、素晴らしかった。
多くの観光客と信者、美しい寺院では今なお何年も前から続く過ごし方を過ごしているようであった。
食事も無料で食べ放題であり、おかわり自由。食器も洗ってくれて水も飲み放題
無料で提供されている宿は外国人だけ隔離されていて、インド人が泊まっている場所はまるで体育館の避難所のように圧巻であった。

なんて素晴らしい場所なんだろう!!
私は無宗教からシーク教に改心する気すら生まれていた。
これでビリーが吸えれば最高なのに(街自体が禁煙)。

そう思っていると、路地裏からビリー(インドの安煙草)の匂いがする。
中で悪そうな男が一人ビリーを吸っていた、明らかにシーク教ではない。
私もそれに倣って一服すると、路地裏の住民たちが『ノープロブレム』と言って不敵な笑みを浮かべる。
いつだって少数派に肩入れしたくなってしまう私は、なんだか彼らが好きになってしまい、何回もその場所にビリーを吸いに行った。

私は今回の旅で、行きたいところなんてほとんどなかった。
しかし、私が事前に調べた数少ない情報で、感動し、ぜひ見たいと思っていたものが二つだけあった。

その一つがインドとパキスタンの国境で毎夕行われているクローズドセレモニーである。

国境を占める際に、セレモニーがあるのだ。
インドとパキスタンは過去に三度も戦争をし、今なお緊張状態が続く国境であるが
その国境では、両国の国境に人が集まり『パキスタン万歳!インド万歳!』と応援合戦を始めるのである。

セレモニー開始2時間前から人々が集まり、1時間前からはそこがまるでダンスクラブになり、女性の参加者のみが華やかに踊りだす。
そして兵隊が行進をし、両国の兵隊が握手をして国境が閉鎖される。

私は不吉に鳴る腹を押さえ、したたり落ちそうになる涙と茶色い液体を我慢しながら、猛烈に感動していた。

『なんだ戦争とか国境って、これでいいじゃん、これが楽しいじゃないか。』

私にとってそれはこの目で初めて見る平和の灯であった。

いつか日本と中国やロシア、韓国もそんな風に観光業に発展させられればいいのにと思う限りである。

インド最後の晩餐は、一緒に車をシェアしてパレードを見たインド人カップル(来週結婚するらしい)がご馳走してくれた。

目の前にタダで提供してくれる食事があるのに、レストランに入ろうというので『いくらぐらいなの?』と心配そうにしている私を見かねてか、『貴方は旅行者だからいいのよ!』と出してくれたのである。
彼女たちだって国内旅行者であるのに。

インドは私の様々な感情を動かしてくれた、素敵な国である。
南に行けばより都会が見れるというし、東の人々は穏やかだという。
場所によって違うのもこの国がバックパッカーに好かれる一つの要因であろう。
必ずまた来たい、私はインドにまた来たいと思ってしまうタイプみたいだ。
そう思いながらインド最後の日を、地べたに布団を引いた宿で寝ることにする。

続く…


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

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