2-54. 行ったことないけど、日本が好き-スコピエ-

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私はスコピエのバスターミナルにつく前から、マケドニアが好きになりかけていた。

それは、バスに乗りんですぐに話しかけてきたマケドニア人のおかげでもあった。
彼は『日本だろ?大好きだよ!!ニンジャサムラーイ!!日本の国旗は太陽だろ?マケドニアも太陽、俺たちは仲間さ!』と。
自国を褒められて悪い気がする訳がない。

海外に出てから『ニンジャサムラーイ』など久々に聞いた気がする。
今となってはカガワやナガトモがニンジャであり、サムライなのだ。

そんなマケドニア人のおかげで、期待を抱きながらも、私は早朝についたバスステーションで寝てしまっていた。
久々の窮屈で運転の荒いバスで、眠ることができなかったからだ。

次に起こされたときには、私の目の前にはマケドニア人のヲタクがいた。

私はソフィアのホステルで見たインフォメーションノートブックを頼りに、彼にメールを送ったのだ。

『私はマケドニア人で、私は画家です。日本のアニメや漫画が大好きです!私たちの日本クラブにぜひ来てください!』
私は彼の紹介で、始めて他国の本物の『日本文化ヲタク』に会うこととなる。
ホームステイをさせてもらっている彼は、政府関係の仕事から、コミック雑誌まで手掛け、現在長編コミックを執筆中の、特にアニメや漫画ヲタクであった。

エヴァンゲリオンが好きだというのだから、日本のヲタクと変わらない。

また、彼は彼の彼女と日本好きのクラブで出会った、彼女は俳句も行い、日本の少年アニメが好きという、かなりインテリなヲタクだった。

彼らに街の見所や食事を教えてもらい、市内の観光へと出かけた。

スコピエの街には新しいものと、古いものが混在する。
1963年に起きた大地震のせいで、川が氾濫して街の中心が破壊されてしまったらしい。

残った旧市街は他の国と変わらず、観光客で溢れ、カフェやホテルが立ち並ぶ。
そして旧鉄道駅にある時計は、地震があった時刻で止まったまま、半壊したままだ。
街の中心にあるこの記憶は、スコピエの人たちの頭に刻まれ続け、それは同時に復建の証でもあるのだろう。

旧市街あったバザールは、私のバザール観光史上で、最も心踊らせたのである。
ムスリムとキリシタンが混在し、売っているものも蛇口からメリケンまで、タバコ製品からトマトまで。
他国の大きなバザールは、同じような店が立ち並び、見ていると飽きてしまうが、ここの違う商品と人種は私を飽きさせることがなかった。

『中国か?』
『いや、日本だ。』
『カガワーナガトモー』

今まで何回したか分からないやり取りを、例外なく終えて、街の中心である新市街へと向かう。

ちなみにステイ先の画家は『この街は何故か中央ヨーロッパになりたがってるんだ、見てあの門、まるでローマだろ?見てあのバス、まるでロンドンじゃないか!ここはマケドニアだよ?わけわかんないよ!』と笑いながら言っていた。

ちなみに街の再建には日本人の丹下健三も関わってマケドニアらしいビルの建設もしていたようだが、政権が変わり、その建設も途中で終わってしまったらしい。

新市街にはショッピングモールや土産物屋が立ち並び、様々なモニュメントと、路上音楽は飽きさせることを知らない。
また、街の中心部にあるスケートボードやBMX用のパークを見て、私は羨ましくなった。
豪華な噴水と、アレキサンダー像。
水や音楽が心に豊かさをもたらすことは、海外に来てから感じることができるようになったかもしれない。

『豊かさって、なんだろう。』

一日で歩けば、観光場所は終わってしまうのに、何日も滞在したくなってしまうスコピエの街並みを見て、私は考えずにはいられなかった。
東京にはあるものがたくさんない街だが、東京にはない大切なものがある気がしてならない。

それは緩やかな時間を過ごす観光客と、人が多すぎない街の中心からなるものなのだろうか。

私は、私の観光案内のために、画家が紹介してくれた女性と、街の中心で待ち合わせをしていたが、私が観光をほぼ終えてしまったことを知ると、彼女はコーヒーをご馳走してくれた。

日本のドラマやアニメ、そして黒澤明の映画を見て、侍が好きになってから日本に興味を持ったという彼女は三浦春馬のファンだという。
宮崎アニメの解説と日本のドラマやジャニーズ、そして2チャンネルの話を、海外に来てすることになるとは思わなかった。

そういえば、トルコでFacebookアカウントを交換したキュートなムスリムターキーのタイムラインは、コリアンアイドルで埋め尽くされていた。

私はそのとき、始めて韓国に対する憎悪のようなものが湧いたのだが、結局三浦春馬に対しても同じような感情を抱くようになる。

東洋オタクといっても、結局は『イケメンに限る』なのだ。

『名前の意味は?』
『セブンスターだよ、輝くようにって』
『かっこいい名前だね!』
『日本のホストも良く使う名前だよ、僕は見た目が良くないから名前負けしてるけどね!』

日本で何回も使った自虐ジョークを、この国に来ても使うことになるとは…
その後に会った19歳の長髪マケドニア青年に、私は衝撃を覚えることになる。

会って最初に『タメ口でいい?』と聞いて来て、会釈をペコペコとする日本人らしい動きにも驚いたが、私が一番衝撃を受けたのは、

『どうして日本文化が好きなの?』

と聞いたときだ。

だいたいは予想がつく、歴史から入るならばニンジャやサムライ、スポーツなら柔道や空手、芸術なら黒澤明か宮崎駿、そしてアニメや漫画、ゲーム。

外国人が好きな日本の文化など、だいたい想像ができるものだ。

しかし彼の口から発せられた言葉は

『最初はギャルゲーとエロゲーだよ。』

可愛い女性が出て来て、ヌーディストになるゲームの存在は私も知っていたし、その手のオタクは私の同級生にも何人かいた。

しかし、まさか外国でそのオタクに会うとは予想していなかった。

『入りはよくなかったかもしれないけど、そのおかげで素敵な日本文化にたくさん会うことができたよ。』

という彼は、フランス語も話せて、マケドニア学生の情報科学の世界で指の数に入るほど、優秀な若者である。

『この国は、誰も知らない小さな国だから、私たちは言語を学ばなければならない。』
韓国と中国の大学に入る推薦状を手に入れたという優秀な青年が言っていた。

時に、多くの留学生がこういう。

『日本の英語教育は…日本人は英語ができない』
国際国家として恥ずかしい、そういう意味を含めながらいう。

私は英語が出来ない。
もちろん、できるにこしたことはない。そして私は私の将来と、多くの外国人の友人のために英語を学びたいと思っている。

ただ、英語を話せない私の多くの友人に対して、日本人に対して私はまったく恥ずかしいと思わない。

それは、日本オタクの彼らが証明してくれている。
日本人は、英語を持たずとも、世界に発信する素晴らしい言葉、文化を持っている。
そして、言葉以上の大きな技術を持っている。

私は工学部出身であり、私の友人の多くが原発や新幹線など、多くの日本技術を下支えする仕事をしている。
それらの技術は、世界がほしがるものだ。
賛否両論はあろうが、原発は急速な経済発展と人口増加を迎えてる国の多くがほしがる技術である。
パキスタン人は、どうにか日本から電気をもらえないかと聞いてきた
トルコは、実際に日本から原発を買っている。

もちろん、世界には多くのライバルができいる。
世界を回ると韓国の会社の電化製品の流通具合に驚かされる。
それらのライバルたちに負けぬようにも、海外に発信する力は必ず必要だろう。
そして彼らから学ぶためにも。

だが、私はその時間の多くを言語学に費やす人々よりも、日本が世界に発信できる技術を支えている技術者たちに経緯を称したい。
そんなオタクがいる彼らの国の平均的な月収は給料は、私のアルバイト時代の月収をはるかに下回る額であり、そして、そんなにも日本が好きなのに、日本にはいったこともないし、まだいけそうもないという。
彼らのような人に会うと、私は日本がもっと外国人にオープンであればいいのに、と本当に思う。

私のような貧乏旅行者は、自国にかえれば彼らの何倍もの収入を得られるのに、彼らの優しさに甘えて、酒を奢ってもらい、楽しいひとときを与えてもらっている。
自分の国と自分が、いかに金銭的に豊かであるのかを、痛感させられる。

私は今まであったすべてのやさしき人々に、できる限りのお礼がしたい。
そのためにもお金を稼ぎたいと思っている。

貧困とはいかにして生まれ、いかにして埋められるか。
多くの人間がバックパッカーをしながら、世界の、特に東南アジアの貧困格差がなくなることを願っている。

しかしながら、貧困層をなくすには、国内の格差をなくすよりも、国家間の格差をなくすことのほうが安易である気がしてならない。

それはつまり、私のような金を稼ぐ技術のない若者が、世界を安易に旅出来なくなることを意味しているのだが。

私は彼らのような人々に出会うと、例えこの先国外を旅することが安易でじゃなくなろうが、私たちと同じようなチャンスを、彼らにもあってほしいと願うようになる。

私よりも日本の良さを理解し、日本が好きで、日本を学んでくれている彼らが安易に日本にこれること、終いには日本で働けるような世界になることを、私は望んでいる。

日本が好きな人が日本にきて、日本で生活する。
私はこんなにも平和的なことはないのではないかと思う。

続く…


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

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