2-53. 結局観光地を見ても何も見えてこないのだろう-ソフィア-

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私の母方の祖父は築地市場で働いている。
私が市場や調理、食品に興味を持つ様になってからは疎遠になっていたため、その職場に行った事はないのだが、私にもその血が流れているのか。
私は他国のどこが一番好きかと聞かれると、間違いなく市場と答えると思う。きっと、どこの国だって市場にいる人間はパワフルだ。

市場には人の優しさがあり、値切りの真剣さがあり、人があつまり。
その国の食文化が垣間見れて、近くにはだいたい安いローカルレストランがある。

ソフィアの活気ある市場を見た事と、天気が前日よりもよかったことで、昨日よりも私の中のソフィアの印象は良くなっていた。
それでも子供の少なさと、老人の多さ、そしてソフィアの人々のクールな性格が、イスタンブールと対比され、どことなく暗い印象は拭えない。

誤解のないように言っておきたい。
アルメニアから行動していたヤンチャな男が、こう言っていた

『旅で出会った人が言っていました、どの国が良かった?ってよく聞かれるけど、その国の印象なんて出会った人で決まるもんだ。その時その場所で違う。って、俺もそう思います。』と。

まさにその通りだと思う。

国とはつまり人であり、人とは様々であり、そして一人の人間に対する印象も人様々である。
ようは主観でしかありえない。
私が書くことも、感じたことも、私の主観でしかないということを、皆には肝に命じておいてほしい。

しかし、だからといって私は語ることをやめたくない、たとえ間違っていても。

そもそもが世の中に主観以外で語られるものなどありはしないのだ。

話をソフィアに戻そう。

私のステイしている女性は、フリーツアーの仕事をしている。
フリーツアーがなぜ仕事になるのか私にはわからなかった。

しかし、気まぐれて でそのフリーツアーに参加してみると、理解した。

ツアーに参加するのはヨーロッパの富裕国の人々である。
休暇を物価の安いここで過ごそうというのだろう。

ちなみにソフィアの、ブルーエリアと言われる観光地の中だけにいれば、とても美しい。
モスクと教会が混在して、裁判所や政府はとても立派、バーやレストランで酒や料理も安くて美味しいものが食べられる。

ただ、一歩外に出ると、見えるのは古ぼけたトラムであり、壊れたレンガ作りの道路であり、落書きの多い壁であり、先日コンサートを行ったというスヌープドックのポスターである。

私は決してそれが悪いとは思わない、私にとっては日本のような美しさは少し窮屈に感じることもあったほどだからだ。
ただ、観光地のみが整った現状を目の当たりにすると、どこか違和感を覚えて、また、その国の観光業への力のいれ具合を感じる。

さて、そのフリーツアーであるが、終わったあとにジェントルマンである大国の人々は、当然のようにチップを渡す。
確かに、彼女のガイドはパワフルでとても愉快だった、チップを渡したくかるだろう。

そのチップの値段を見ると、私の一日の食費よりも多かったりする。
それが何人も何人もくれるのだから、『無料より儲けるものはな
い』である。

感心しながらも、私はフリーなものはフリーだと解釈し、彼女に『また後で』と言ってその場を後にした。

しかし、彼女と会うのはこれが最後になる。
マケドニア行きのバスが深夜発であったため、もう一日の以上ステイすると考えたら、その日のうちに出たくなってしまった。
私のヨーロッパの旅は、多くのパッカーから『早い』と言われたアジアよりも駆け足である。

マケドニア、スコピエ行きのバスに乗ると、ヨーロッパの大学院で勉強しているという日本人とシートが隣になった。

彼は、ヨーロッパでの大学院生活を送るために、3年間の社会人経験を積んでから、ヨーロッパで大学院に入っているという。

そういえば、ソフィアまで一緒に来た建築士のバックパッカーも、『半分、仕事みたいなものです、建造物ばっかり回っているから』と言っていた。

『自分探し』
何がしたいのか分からないがと言って日本を出る人間は、どんな綺麗に言葉を並べても、結局はこの言葉に収縮されるだろうを

確かに旅に出て、視野を広げて、時間を使って考えれば、多少なりとも自分は見つけることができる。

ただ、何かを捨ててきた人間たちは、その先に道を持っていない。

毎度のことながら、技術も何もなく、学ぶべきことも持っていない、何もない自分に、自分がわかればわかるほど嫌気がさしてくる。

どうすればいいのか。

技術もさえあれば、フリーツアーの彼女のように、どこにだって道はあるのだ。

自分はわかっても、道筋が見えないことに不安を覚えて苦悩する。

でも旅に出る前に行った気持ちを忘れないようにしたい。

そう、苦悩こそ前身であるのだ。
悩み続けながらも、前に進むしかない。

私の旅に期限があることを、目的があることを、今では良かったと思っている。

そう、前に進むしかないのだから。
続く…


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

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