2-74. ナショナリズム-ロンドン-

Casio_F-91W

前記時にも記したが、ゲイのホストの住んでいる場所はグリニッジに近い。

グリニッジ、グリニッジ天文台、グリニッジ標準値…聞いたことがあるだろうか?

そもそも我々が何気なく使っている時間、重さ、長さなどのものには基準となるものが必ず存在する。
時間においてその基準がロンドン、グリニッジの天文台にある(世界基準の方だという意見もあるらしい。)。

日本はGMT-9:00である。つまり私は日本から9時間、過去に向けて移動したことになる。

日本を出発する前、バイト先の友人が『パチンコで勝って買ったやつだから』と、G-SHOCKの時計をくれた。

彼が、私が旅に出ることを知っていたかはしらないのだが、その時計には世界各国の都市名が書かれていて、そこに合わせると時刻を自動で会わせてくれるのであった。
それは私の国境越えの密かな楽しみとなっていて、国境を超えるごとに、『TYO』から離れ、『GMT』という文字に近づいていくたびに、わくわくしていた。

多くの場所の入場料が無料なロンドンにあって、この基準線は入場料がかかる。線を見るためにバカバカしいと思っていると、無料の場所にも線が引っ張ってあって、簡易的な白い線をまたぐことが出来る。
私はいま基準時刻に立っているのだという優越感に浸れるのだ。

さて、そのグリニッジ天文台、当然のように時計にまつわる博物館があり、土産物が並ぶ。
土産物屋の二階には時計の歴史を展示している無料の博物館のようなものがあるのだが、そこを見たときに私の中の愛国心がこの旅で一番擽られた。

腕時計の歴史のようなものが展示してある場所である。
最初に展示してあるのは、多分世界初の腕時計、そのあとは、モデルと共に、時代時代の流行りの腕時計が展示してある。
そして一番最後、つまりは現代を表す腕時計に展示してあるのが『CASIO』の電子腕時計であった。

私は笑みが止まらずに、胸が高鳴った。

『日本人はクレバーだ』
『リッチな国だ』
『ハードワーカーだ、真面目だ』
『クリーンだ』

旅をしていると、日本に対する賛美の言葉を数多く耳にした、私はそれらに対して謙遜し、それほどうれしくも思えなかった。我々はクリーンでハードワーカーで金持ちで綺麗な国に住んでいるかもしれないが、私はそれを誇るほどそれに憧れてはいないからだろう。
私は日本人が亡くなったことに対して、他の国の人間以上の感情をあまり抱かない。
もちろん、知人友人親族なら別だろう、ただそれ以外は私にとってあまり特別な意味をなさない。

しかしCASIOの腕時計を見たとき、私は世界に『どうだ!』と言いたくて仕方がなくなった。
これは我が国日本が作ったのだ、時代を作ったのだ。
安くていい製品を、これが日本だ!そう叫びたくなった。

これが愛国心というものなのか。

もちろん、その腕時計を作ったのは私でもないし、私はその腕時計に一切関与していない。
しかし、私の国の先駆者たちが、腕時計の歴史の一端を担っていることを、誇りに思わずにはいられなかった。

私は少し前に流行ったことの言葉を声を大にして言いたい。
日本で働く多くの人に、友人に。
技術者に。

頑張ろう、日本!そしてたまには休もう。

私はこのGMTからTYOに戻るか、それとも+の方向に行こうか、少し考え中であるが、遠くから皆の活躍を、こちらに響くことを祈りながら見守っている。私も頑張らなけらばならない、皆に負けないように。

続く…


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

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