3-14. らしく-トロント-

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私には会話が盛り上がったり、酔っぱらったりすると必ずと言っていいほど尋ねる迷惑な質問がある。

『貴方の夢はなんなのでしょうか?』

私が今までの人生で出会ったほとんどの人は、常に宙ぶらりんな状態にいる私に比べればいくらか明確な目標を持って日々を生きている。
高校や大学の受験の時も、就活の時も。
ワーキングホリデーでカナダに来ている人々を見ていても、私ほど明日起こる出来事に身を委ねておきながら、それに嫌気がさしている人間を見たことがない。

小中高の卒業時に言った、『私はまだ見つからない夢を見つけるために進学する。』とという言葉は、結局大学を出ても実行することができなかった。

夢のための第一歩である、それを探す旅路ですら、私はまだ終わることが出来ないでいる。
そしてそんな自分に焦りを覚えては、皆が進む道を横目に見て羨ましがっている…。

そんな私は、相手が会話をしてくれる人間だと分かると上記の質問を投げかけては、そこに辿りつくまでの経緯を知ろうと必死になって、質問に質問を重ねる悪い習慣がある。

ただ、時たまそんな宙ぶらりんの自分こそが、自分が求めていた『夢』だったのではと思う時もある。

 

去年の今頃、職を失って一緒に住み始めたチリ人のポーラ。
田舎の観光町で職を見つけて、トロントを出てから、なかなか連絡が取れなかった彼女と、久々に話すことが出来た。

去年の秋頃にチリに帰った彼女は、私が極寒の雪国で苦しんでると聞くと、自国のおいしい食事と『夏』の美しい景色を存分に楽しんでることを自慢してくれた。

久々に話す彼女の愛国心ぶりに、去年の懐かしさを覚える。

そんなチリ大好きのポーラは今年中にまたワーキングホリデーを使い、オーストラリアに行くことを計画中だという。

『チリが大好きだろ?どうしてそんなに外に出たがるんだい?』私がそう聞くと、ポーラは『何をいまさら』というような様子で答えてくれた。

『私が老いる前に、見てみて、知ってみたいの。出来る限りのことを。』

好奇心という不安定な感情のもと、これといった大きな目的もなしに、どうして海越え旅をすることが出来るのか。自分もそんな人間の一人だということを承知しながらも、どうしても理解することが出来ない私は、いつものように尋ねる。

『君の夢はなんなんだい?何をしたくて、何になりたいんだい?』

前と何ら変わらない陽気な声で、彼女は返答してくれた。
『何かって言われると分からないけど。私らしくいたいだけ。私はそれに誇りを持っているわ。分かるでしょ?』

彼女から同じ質問を返された私は。
『日本を出るとき、世界を回ればそれが分かると思ったんだ。たくさんのことを知れたし、君とも出会えたけど、一番大切なことはまだ見つけられないんだ。何になりたいのか、何をしたいのか…。』と答えた。私は何になりたいのだろう、今の自分に誇りを持っているだろうか…。

そう聞くと、私が落ち込んでいると思ったのか。
『貴方は何もなくはないわ。英語もしゃべれるし、いろいろしてるじゃない。』
と励ましてくれた上、ポエムみたいと笑いながらこう言ってくれた。

『探し続けるのよ。『その時』は自分が『その時』と思っていない時に訪れるものだから。自分らしくいるの、それはとっても大変だけどもね。』

自我が強くて、喜怒哀楽の激しいポーラ。職を失ってうちに転がり込んで、スペイン語で私を悩ませたポーラ。それでも彼女に再会するために南米の美しい海沿いの国に行ってみたくなってしまう。

『どこでもいいから必ずまた会おうね。オーストラリアでもチリでも、日本でも。どこでも。』

 

 

沢木耕太郎の言葉通り、『旅は病』である。
小田実、沢木耕太郎、そして高校の同級生が私に伝染させた病は、今なお私の中で完治することがない。
例え目的地に辿りついたとしても。たとえ一つの旅が終わろうとしても。
そこで出会った多くの人間や事柄が、また人を旅発たせようとしてくる。

『海外で日本語を読む』という罪悪感から抜け出し、最近やっと趣味の読書を再開することが出来た。
職場においてあった沢木耕太郎の『チェーン・スモーキング』の小話の中の一節に、こんな言葉を見つけた。

『この女性は文学好きの女性ではない。少なくとも、人生に煩悶し、死を選ぶというようなタイプではなさそうだ。』

そうか、私が答えがない答えを求めて、終わりのない旅をつづけ、解決できない悩みを抱き続けて来たのは、星新一の『きまぐれロボット』で人生で初めて一冊の本を読み終えてからの宿命なのかもしれない。

文学と呼ぶには程遠いい私の戯言のようなこの文字だが、もし誰かに伝染できたら幸いだと思う。

終わりのない旅と、それに悩み続ける人生の入口にようこそと言いたい。

ただ一つ、この言葉を常に胸の中に秘めて、忘れてはいけない。

Be proud of being myself.

続く…


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

2件のコメント

  1. はじめまして、ALIと申します。
    これからのことに迷ってるときにここを見つけました。
    もしよければ、聞き流して下さい。
    実はもう何年もひきこもりをしていて、2年前に父の母国、パキスタンへ気分転換に訪れたのです。その時に、日本に比べたら不便な環境下にもかかわらず、何もしない毎日から生きていくために自分も含めてみんな行動しないといけない2週間を過ごし、出来なかったはずの事もやらなくちゃいけなかったからか生きている実感みたいなものがしたんです。でも、日本に帰国してからやはり、家族や10代と言う言葉に甘えてしまい又何もできずに前と変わらない日常が過ぎて行きました。今年20才になって、焦りがとめどなくでてきてでも何もできないのかやらない、行動しない自分がいて、やっぱり駄目だと思い夜間の高校へ行こうか悩み準備もしたのですが、今日、願書を出せに行けなかったのです。やっぱり後悔している自分もいて、情けなくて、どうしたらいいのか。それで、ずっともう一度パキスタンに行きたいと言う気持ちが心のどこかにずっとあって、自分を変えるためにも父に相談したのですが、今の治安の問題もあり反対の意見しかもらえず、自分の行動に責任をもって考えろと言われてしまいました。自分が我儘でだらしなくてもういい大人なのにちゃんとしていないことも十分わかってはいるんです。そのせいで家族や周りに迷惑をかけてる事も。ここですべてを諦めてしまえればいいのに、どうしてわたしにはそれができないんだろうって。Be proud of being myself.それを忘れないで生きていることは素晴らしい事だと思います。わたしにもそれが素直にできたらいいんだろうと考えてしまいました。

    長々と感情的にすみませんでした。これからの旅も楽しみにしています。

    1. ALI様
      知り合い以外からあまりコメントをいただいたことがないので、これが正しい返答なのかも、ましてや『聞き逃して下さい』と言う文章に、返信していいものかと悩みましたが。
      投げかけられた言葉を投げ返すのを我慢することが出来るほど出来た人間ではないので、返信させてもらいます。

      パキスタンのような治安がよろしくないとされている国に渡航することに関しては、この間の邦人殺害事件の時にものすごく考えました。行くべきではなかったかもしれないし、これからも行くべきではないのかな、と。だから、行くことに対して背中を押すことはできません。でもきっとこれから歩む先にそんな危険地帯があっても、なんだか入ってしまいそうな自分がいるのも事実です。結局数億人にかける『かもしれない』迷惑よりも、自分の好奇心という感情を優先してしまう、他人のことを考えられない人間なんだな、と思います。

      自分自身もとってもだらしない性格で、『結局誰かが助けてくれる』という期待の元、自分から行動できない自分がものすごく嫌いでした。
      だから、自分の旅のなかで、自分自身を変えてくれた何かしらがあったとしたら、それはパキスタンを通ったこと、カナダで働いたことでもなければ2年近い海外生活でもありません。誰に言われるわけでもなく、親に相談するわけでもなく、自分から日本を飛び出して上海の空港に下り立った時だと思います。

      未だにトロントに定住して、だらしない自分が顔を出し始めて、『なにもするな!』と叫んでいます。それと同時にそれが悪だと思う自分が、なにもしない自分を責め続けます。

      それでも、自分は出来る奴だと、いつでもここから飛び出せる人間なんだと、自覚し誇りを持つことが大切だと思うのです。
      誇りを持つと、自信に変わり、自信は行動になります。

      耐えきれなくなった時、きっとその時が来ます。そんな時には、『他人に責任が…』なんて考えないと思います。

      大切なのは初めの一歩です、それ以降の大変さなんて大したことありません。

      僕が20歳の時は、大学に通っていたけども、同じ焦りを感じていました。
      結局自分のしたいことをしてないうちは、多くの人がこの焦りを持ちながらいきているのだなぁ、と今になれば思います。

      少しでも心安らぐ文章になってくれてたら幸いです。頑張ってください。

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