浅草橋の砥石と刃物の店 『森平』

 

かつては森平のために20以上の集団が働いていた。

京・浅草橋にある1933年創業の刃物と道具・天然砥石の卸問屋。前身である小黒森平商店を含めると100年以上もの間刃物及び砥石と関わってきている。かつては関東を中心にした20以上もの鍛冶屋・研ぎ屋集団が森平の元で働いていたこともあるなど、東京のみならず日本の刃物産業の第一人者的なお店である。店主の小黒章光氏の元には、天然砥石の専門家として全国から大学の教授や政府の調査員・研究者などが意見を求めにやってくる。また、東京をはじめとする全国の販売店、生産者、鍛冶屋等がアドバイスを求めて店に通う、寺小屋のような場所でもある。

んな小黒氏の仕事は、ある研ぎ専門店から始まった。父親に修行のためと入れられたそのお店は、4~5台ある研ぎ場に研ぎ師が一人ずつ立ち、それぞれが独立して来店客の研ぎ依頼を受けていた、腕の立つ人間には長蛇の列ができて、仕事のない人間には砥石の面を直す作業が与えられた。

ショールームでは砥ぎながら砥石を選ぶことが出来る。

小黒氏が『今でも嫌な思い出として残っている』と話すこの面直しの日々は、しかし、後に砥石の基礎を覚えるための重要な経験であった。結局住み込みで2年間ほとんど休みなく働き、店で一番長い列を作るようになった後に、森平の一員として働き始めるようになる。
当時は、喧嘩を始める鍛冶師と研ぎ師の仲をもち、自らの言葉でそういった職人たちを納得させるのも問屋としての一つの仕事であったため、職人たちよりもより多くの知識・技術を要する必要があった。そういった技術の一環として、また自身の趣味もこうじて、23歳頃に当時砥石の卸先として出入りしていた刀剣研磨師の元へと入門する。通常なら住み込みの弟子しかとらないところであったが、家業があるために特別に通いでの入門となったため、通常5~6年のところ、15年かかりで師から認められる。こういった技術・経験・知識及び歴史こそが森平が大工・料理人・研ぎ師等の職人のみならず同業者からも信頼される礎である。

刀匠・加藤清志さんも森平をよく訪れる人の一人。

平が販売するそのほとんどの天然砥石と一部の人工砥石には、シリアルナンバーがふってある。この番号が消えるまでならば、何度でも森平のもとで、それらの砥石がどのようなもので、どういった年代に作られた・採掘されたものなのか、確かめることが出来る。こういったところからも『売ったら終わり』ではない森平の丁寧さ・心遣いが垣間見れるだろう。

かつては職人それぞれが銘を持ち、競い合っていた。

かつては職人ごとに銘を作ることで、久元(料理庖丁)、清光(料理庖丁)、義友、喜作(園芸鋏)、國秀、菊勇、雪峰、江戸光、助房、博楽、初虎、千代正、久弘、喜久光、雪月、本國秀、豪作、重族、宗次、雲仙、幸四郎、ケサ、菊光、是信、東久元、是久という多くの銘を傘下に持ち、誂えの依頼があれば研ぎを行い、鍛冶屋のもとに出向き指導も行う。また、森平のもとには数十年前から現在に至るまで、小黒氏の目にかかった逸品が、次世代への参考資料として残っている。


小黒氏に時間があるときであれば、コレクションの一部を見せてくれる。

 Tosho Knife ArtsおよびAi and Om Knivesはカナダでの森平での刃物および砥石の専属販売協力店として協力関係にあり、森平の商品はTosho Knife ArtsおよびAi and Om Knivesを通して購入することが可能である。

しかし、もし日本に行く機会があれば、浅草橋まで足を延ばして、ぜひ、森平のショールームに足を延ばしてみてはいかがだろうか。店主の小黒晃光氏がいれば、きっと満足する庖丁または砥石を一緒に選んでくれることだろう。

写真・文章:相澤北斗ひとひら

株式会社 森平
〒111-0053東京都台東区浅草橋1-28-6
TEL:03-3862-0506(代)
FAX:03-3861-0377
営業時間:午前10:00~午後5:45
(土・日・祝日休み)


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

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