2-55. 優しさを食べて進む-スコピエ-

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私は台湾人の奏でる美しい『風に乗って』を聞きながら、スコピエの夕日を眺めていた。
バイオリンを弾きながらの旅を始めたばかりだという台湾人の彼は、私がお金を投げ込むと、私の国を聞いて来た。

『あなたの友達の日本です。』

そう答えると彼は
『ありがとう、ではあなたの国の曲を』

と言って、風に乗ってを弾いてくれた。
何処の街だって離れる時は名残惜しいものだが、多くの友人を作り、沢山の会話をしたあとだと私はできることなら残りのすべての旅をその街に捧げてしまいたくなる。

私はこの街で、多くの友人を作り、彼らから日本の素晴らしさを教えてもらった。
そして私は日本の素晴らしいところを彼らに教えることができただろうか?

いや、私は彼ら以上に日本の素晴らしいところなど知らないのかもしれない。

『エクスペンシブル、ハードワーカー、メニィピーポー、ノットバケーション、ノットチャイタイム、クローズザハート』

これらは、金を稼ぎに日本に行きたいと言う日本に過度な期待を抱く外国人に私がよく使う言葉であった。

では、私が彼らに日本の素晴らしさを伝えてきたかと言われると、そんなことはしてこなかった。

『日本はフレンドリーさ、誰とでもね。』

そんな言葉以外は、私は私の顔面同様にいつも自虐的な言葉で相手に返してしまう。

先人たちが築き上げてきた日本と言うブランドを、潰さないように、しなければいけない。
私は国を愛するということはとっても大事だと思う。それは過度な愛国心によって排他的になることではない。

私は、旅して多くの国を好きになったが、彼らが自国を愛してないことを知れば、私はきっと悲しいだろう。

気づかさせてくれてありがとう。
多くの日本オタクの人と、酒飲み、話し、ゲームした日々を、私は忘れないだろう。

通り過ぎる道程で、様々な人に会い、そして別れることが悲しすぎて、私はいっそ会わないほうがいいんじゃないかと思うことすらある。
『あなたに訪れる3つの道は、すべて外を向いている。そして貴方には貴方を待つ大切な友達がいるでしょう。貴方はきっと勝負に勝って幸運を手に入れるでしょう。』

画家の彼女が、コーヒー占いでそう教えてくれた。

コーヒー占いが当たると考えれば、私の旅はまだまだ有意義だろう。
私にとってはもはや、ロンドンまで行くことが目的ではなくなっている。

ロンドンで待つ友人に、私の『経験』を話すことである。
いや、日本に待つ友人や、連絡先を交換した各国の友人たちにもだ。
ロンドンまで、気をつけて。
画家は、別れ際にそう言いながら20ユーロもの大金を私に手渡した。
旅は、優しさを食べて進むんでいる。

誰かが言っていた。
その通りだ。
優しい人がいたから、ここまで来れて、ここまで有意義な旅を続けられている。

私は、この20ユーロ以上のものを彼らにも返さなければいけない。
それは、物の価値ではない。

私の夢の夢の一つは、10年後に同じルートを通って、友人たちに会うことである。

国ではない国に向かいながら、私は今までの旅を思い返して、今後を思い描いている。

続く…


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

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