3-7. 1月1日のお話-トロント-

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新年のお話
年越しをダウンタウンの花火で過ごしたあと、私たちは音楽に乗って少し踊り、新年の高揚感を味わって、電車に乗った。
チリ人のポーラは訳があってお金が全然ない、でもプライドか、優しさか、借りることはしたくないらしい。

『ホクト、今日はスペシャルデイだよ?このまま帰るなんてもったいないよ!!』

女の子が好きで好きでしょうがないトルコ人のエルスンが、地下鉄の中で私に言う、確かに!と思いながらも、ポーラは帰りたいんだろうな、と思っていると。

『いっちゃおう!おりちゃおう!』とエルスン。

次の駅で、私たちはポーラと、そこに一緒にいた日本人女性の友人を置いて、電車を降りた。

結局ダウンタウンに残っても、私はクラブやバーという遊び場所を一切知らない。
エルスンやポーラ、その他の友人たちと話してるだけで楽しかった私は、わざわざ外に出て金を使おうなんてこの二ヶ月思わなかったのだ。

結局、エルスンが知っていると言っていたクラブは入れなくて、適当にぶらついていると、ある通りの二階から音楽が聞こえてきた。
外にいても退屈だ、と何気なく10ドル払って中に入る。
怪しい赤色のライト、何故か上裸な黒人のふくよかな女性。

その雰囲気に、最初は楽しんだものの、だんだんと『あれ?おかしいぞ?』と思ってくる。
なぜか女装してる男性が多い、女性が皆ベリーショートだ。
普通の男女がいても、それはカップルである。

『ここ、間違えたね』

そう私が言ってもエルスンは
『で、でも普通の一人の女性もいるじゃん!大丈夫だよ!』
と言ってくる。

『確かとても綺麗でセクシーなホットガールに見えるけど、あの人が女性かどうかは定かじゃないだろ?』
と言うとやっと納得してクラブを出る。

20分ほどで出て行く私たちにドアマンが言った一言が、

『I think so』

だった。
確かに私たちはゲイやホモ、おなべには見えないだろう。

よくよく見てみると、エントランスで押された手の甲のスタンプは

『DIRTY』

と書いてあった。

結局その後、エルスンが一度行ったというもう一つのクラブも、場所を忘れてしまい、見付け出すことができなかったが、人通りのない白銀の街並みを、街頭が照らす美しい景色に、どこからともなく音楽が流れてきて。

『映画みたいだね』

と私たちは笑った。

やっとのことで朝になって家に帰ると、ポーラはもう寝ていて、翌日になると、ポーラは昼間までチリの友人たちとタブレットで電話をしていた。
いつもよりも大きな声、ただでさえ抑揚の激しいスペイン語がいつもにまして激しくなっている。

怒っている。話さなくてもすぐに分かる。

『私のものに触らないでくれる?』

そのあからさまな拒否反応にイラっとしてしまった私とは対象的に、さすがのたらしなエルスンは違っていた。

一言目にソーリー、二言目に目を見つめてI know。

きっと世界のどこにいっても、女性が怒ったときには謝り続ける以外に道はないのだろうな、と思いながら、私もエルスンに習って謝り続けた。

『分かる?これは私の国では考えられないことなのよ?』
と言われ
『僕の国でもだよ』
と言うしかなかった。

それでも次の瞬間には
『分かったわ、これはもう忘れるわ!』
と言って、笑顔を見せてくれる。
『昨日の話を聞かせて!』と。

そんな彼女と、エルスンが愛おしくてしょうがない。
外国に出て、始めて出来た仲間のような、家族のような存在が、私のここでの生活を豊かにしてくれてるのは言うまでもない。

そんなエルスンも、金銭的なタイムリミットで、2月の頭までに仕事が見つからなければ帰国しなければいけない。

『頼むから仕事みつけてくれよ!』
『うん、明日からね!手伝ってね!』

結局クラブでわいわい出来ないところも、マイナス十数度の街を歩いたことも、マイノリティのためのディスコに行ってしまうことも、怒られることも。

私らしいな。

そう思わずにはいられない2014年の幕開けだった。
続く…


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

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