2-60. きっかけは単純-サラエボ-

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私が東欧の旅を、なぜ旧ユーゴスラビアを重点的に回っているか。
前述の通り、私は見てみたい外国の景色も、行ってみたい国もほとんどなかった。
そもそもが私は外国の知識が人よりも乏しく、日本にいたときは外国を知ろうなんてまったく思ったことがなかったのだ。

日本人の、特に若い人と話すと『世界の政治や経済に興味があるんですか?』と言われることが多々あったが、それは私が旅をしながら電子書籍で各国の『今』について学んでいるからであって、さらには今を学ぶということは過去を知らなければならないことが多く、自然と知識が増えていっただけである。

そんな私がなぜ旧ユーゴスラビアの国々に行ってみたい、見てみたい気持ちになったか。
それに関しては日本を出国する前に遡る。

私は就職活動をしながらつまらない日々に飽き飽きしていた。
何もない日常と、退屈な毎日の暇をつぶすために、私の周りの多くの人々と同じように掲示板のまとめブログを携帯アプリで読んでいた。

ある日、アクセス数ランキングから、人気の記事を見ていると、こんなトピックを見つけた。

戦争の体験談語るわ

私はこの時初めてユーゴスラビアと言う国があったことを知ったし、私が生まれた後に紛争があったことを知った。
この著者は結局この後に、この話の全てが真実ではないことを打ち明けたが、私は東欧を回る時間が出来たと知ったときに、どうせならこの国を見てみたくなった。

こんな大したことない理由の上、海外に出る前に、私がいかに海外の知識がなかったか分かってもらえるだろう。
今だって自分が通った以外の国々への知識も乏しく、たとえそれを書籍で調べても、自分の目で見ない限りは頭の中に本当の景色を描けないと思っている。

前記のモスタルにおいても、その紛争の跡は生生しく残っていて、それが遠い過去の出来事ではないことを感じることが出来た。

この首都であるサラエボも例外ではなく、サラエボは紛争中、周りをセルビア側に囲われ、孤立状態にあった。
その時に地下にトンネルを掘り、物資の運搬などを行っていたのだが、そのトンネルの一部が現在も残っており、ミュージアムになっていた。

当時のままであろうトンネルや、武器や軍服の展示品でも、その現実味を感じることが出来たが、私はそのミュージアムで流れている映像を見たときに、これが本当に最近起きた出来事だということを実感することが出来た。

映像がとても綺麗に残されていたのである。

私の知る白黒の戦争ではない、カラーで鮮明に記録されている紛争であった。

その映像は私により現実味をもたらしてくれて、同時に破壊が生む悲しみを感じることが出来、そしてそれでもその時を笑顔で生きる人々を垣間見ることもできた。

帰り道、雨が降り雨宿りをしていると、老婆が家に招いてコーヒーをご馳走してくれた。
まったく英語が通じなかったが、その優しさだけは感じることが出来た。
しかしその家の数件隣にには、銃痕が今も意図的であろうが、残っている。

争いは、その国自体に危険や危ないというイメージを植え付け、そのイメージはその国に住む人々にまで及んでしまうが、私はこの国において、優しさ以外のものを一度たりとも受けたことはない。

宿に帰ると、だんだんと人が集まり、宴の準備が進められてくる。
ポーランド、メキシコ、スウェーデン、スイス、トルコ…
彼らの多くは、休暇を楽しみにこの国に来ている。

『どうしてこの国に来たの?』

というと、『この国が面白い歴史を持っているからだよ』と言う。
夜になればバーに行き、ジャズを聴きながら自由に踊り
カフェに行き水煙草をふかしながら話す。

自由に遊び、自由に学び、自由に旅することが休暇の中で出来るということを実に羨ましくも思いながら、日本の大学生にだって一か月以上の休みがあることを思い出す。

まだ在学中だという諸君がいたら、ぜひ旅に出てみたらどうだろうか?

二人のポーランド人と酔い覚ましに、外に出てシーシャを吸っていると、英語の苦手そうな片方が自国の言葉で話そうとしだした、
するともう一人が『ダメだよ、英語で話して。』と注意する。
ポーランドの言葉を理解できない私への配慮なのだろう。
私は彼らの話す英語の2割も理解できていなかったが、それでも気遣いに喜んだと同時に、私は反省した。
私は外国人がいるなかでも、いつも日本人と日本語で会話をしてしまっていた。
それはもちろん、私が英語を話せないからでもあるのだが。

彼らのためにも、英語で会話をするべきだったのだ。
そのように共通の言語で会話を楽しむことで、偏見も差別もなくなるはずだ。

逆に私たちが、同じ髪色と肌色の人間だけで集まり、他の人々のわからない言葉で会話をしてしまったら、きっとそこにいいイメージは生まれないだろう。

反省しよう、そして英語を学ぼうと、彼らは私のその意欲をまた一つ大きくしてくれた。

続く…


Hokuto Aizawa
世の中にあきれられた一人の男が、世界を半周した後、北国カナダのトロントにて庖丁に出会う。日本に帰国後、ふらふらしながらも目の前にある美しい事々を見逃さないように暮らす。

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